白い幻、おまえのいのち


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 まさか鬼頭が俺にからんでくるとは思ってもみなかったので、珍しくて面白くて、ニヤついてしまった。晴天にいた頃は一度も向こうから話しかけてくることなんてなかったのに。
 これは推測だが、俺と鬼頭は、お互い意識下で半田を取り合っていたのだと思う。特に俺が強く半田を束縛していた。だから鬼頭は自然に俺から距離をとるようになってしまったのだ。

 まず佐藤ルートで「鬼頭がお前のアドレス教えて欲しいって言ってるよ」と知り、驚きはしたが要望どおり教えさせると、今度はメールで「電話してもいいですか」ときた。
 何事なんだ。しかし今日は乗務の後半が残っているので、深夜でいいかどうかメールを返した。
「なんかあったのかな」
 詰所のソファでつぶやくと、向かいに座って新聞を読んでいた天つ空の井垣が、不思議そうに顔を上げる。
 そこへ桂は缶コーヒー三本を手に戻ってきた。
 井垣とともに120円を財布から出して机に置く。
「全っ然仲良くなかった後輩が、電話したいって」
「…ほぉ」
「なになに」
 小銭を回収しながら桂が井垣の隣に座る。俺は携帯の画面を確認してから、二人の目の前に出した。
 さっき言ったとおりのことが簡潔に書かれている。絵文字の一つもない。そんなもの必要ないといえば必要ないけど。
 井垣はフーンと小首を傾げた。
「確かにまぁ…そっけないわな」
「そう?オレには普通に見える」
 コーヒーを開けながらそう言ったのは桂だ。確かに桂は絵文字や顔文字を使わない。ひどい時は句点すら省く。
 いや、それはともかく。鬼頭が何の用事で俺に電話したがっているのかということだ。井垣がそっけなく言った。
「実はずっと好きでしたとか」
 ぶ、と桂がコーヒーを噴きかける。今まさに開けようとしていた俺はというと、力んだせいでプルタブが爪に食い込んだ。
 そんな二人分の反応に満足したらしい井垣が、そうじゃなくてもやっぱり仲良くしたいなぁみたいな感じかも、などと訂正する。
 俺は今度こそちゃんと缶を開けて、一口飲んだ。舌の上にほの甘く冷えた苦味が広がった。
「…その割にはちょっと余裕なさそうじゃない?」
「じゃぁやっぱり、ずっと好きでしただな」
「それはもういいから」
 そっけない冗談を続ける井垣の隣で、桂が笑っている。他人事だからな、こいつらには。
 するとふいに井垣が思い出したように、新聞をめくった。
「さっき小さい記事があったよ。荒野線で痴漢が刺された話」
「…なにそれ?」
「あ、オレも今朝読んだ」
 B新聞、社会面の端に、内容がまとめられている。
 ――荒野線抱笛駅に到着した普通電車の車内で、痴漢に遭った女子中学生(15)が所持していたカッターナイフで晴天区役所職員男性(25)の脇腹を切りつけた。女子中学生は通学時にも何度か痴漢被害に遭っており、「次に痴漢に遭ったらカッターで脅してやめさせるつもりだったが、しつこくやられたのでカッとなってやった」と言う。男性は命に別状無し。止めに入った運転士と車掌がそれぞれ軽症を負った。……
「あれ……」
 読んだ桂が首をひねり、隣のテーブルに声をかけた。そっちにA新聞ある?
 やがてA新聞が目の前に広げられた。
「うちA新聞なんだよ。そっちのはもうちょっといっぱい書いてた気がする」
 一発で社会面を開いて、桂は問題の記事を発見した。
 確かに少し分量は多い。大筋は同じ。驚いたのは、ご丁寧にも助けに入った二人の名前が書いてあったということ。――半田車掌(24)と池町運転士(29)だと?!
「両方知り合いだよ!!」
「マジかよ!」
 記事には、同じ車両で目撃した別の乗客の話をもとに、特に車掌の言動が具体的に書かれていた。
 ――車掌は駆けつけると、「落ち着いて」「もう大丈夫だから」と話しかけた。頭に血が上っていた女子中学生は、車掌の呼びかけで徐々に落ち着いていった。……
 ――ちなみに半田車掌は晴天旅客鉄道社長半田良一郎氏(73)の孫にあたる。半田社長が21日通勤途中に痴漢を突き出して間もない。半田車掌の正義感の強さは祖父譲りだろうか。
「……社長、痴漢突き出したの?」
「っぽいよ。ていうか社長の孫なんだ、そのヒト」
 そうである。でも本人は全く気にしていないようだった。ほぼ赤の他人だとまで言っていた。
 や、それはともかく、二人とも軽傷を負ったとある…ってB新聞、漢字間違ってやがる。
 その時ちょうど鬼頭から返事が来た。「お疲れのところすいません。よろしくお願いしますm(__)m」である。井垣も桂も声を上げた。
「顔文字だ!」
 うん、少しホッとした。
 それから俺は半田にメールを送り、やや躊躇してから池町さんにも同じ内容のメールを送った。池町さんにメールを送るのは久しぶりだ。


 深夜23時半、泊まり用の宿舎に入ってシャワーを浴びてから、電話をした。ここの部屋は壁が薄いので長電話は禁物だ。
 すいません、と鬼頭は静かに言った。印象よりも声が低く感じられる。電話のせいなのか、鬼頭の心情の影響なのか。
「ごめん今日泊まりでさ。あんまり長くはしゃべれない」
 ごにょごにょと告げると、わかりました、と鬼頭は受話器越しにまた低い。本当に、何事だというんだろう。
 身構えていると、一呼吸置いた鬼頭が単刀直入に言った。
『半田さん…工場島に行くと思いますか』
「……工場島に?」
 なんだそりゃ。どういう文脈なんだ。
「どういうこと」
『工場島に廃駅があるじゃないですか、廃駅』
「うん、あるね」
『そこに行こうっていうツアーみたいなの』
「…うん」
『それの告知の葉書が、半田さんの部屋にあって、問い詰めたんですけど。半田さんは行かないって言ってたけど、行かないなら葉書捨てるでしょ?消印が半月も前だったんですよ。なのに、いらないのに、ずっとコルクボードに貼ってるなんておかしいでしょ?』
「…………」
 鬼頭は言い募り、やがて急に押し黙った。俺も少し、黙った。
 …半田宛てに、工場島ツアーの葉書が?
 原発記事に関連して調べた時期があった。工場島ツアーは毎回内密に計画されるものだったと思う。無差別に告知の葉書を送るような団体でもなかったと思う。そもそもあれはA新聞のネットのニュースに出ていたように、「大学の一サークルという位置づけの団体、大学により既に強制的に解散させられている」集団だ。
「…ツアーの決行日覚えてる?」
『……七月って書いてあったと思います』
「そうか」
『…………』
「……鬼頭?大丈夫?」
『……はい…』
 まさか泣いてるわけじゃないよな。確かに状況は雲行きが怪しいが。…そうか、半田は、あのサークルの人間だったのか。それは一体どういうことなんだろう。
 俺がフィールドワークで八番街に潜り込みたくなるのと同じ心理だろうか?しかし工場島の危なさは八番街の比ではない。人体に悪影響が出るほどの数値が観測される場所だというのは、既に一般人でも認識しているほどだ。半田が現地の状況を知らないはずがない。
『…止めてくれませんか』
「え?」
『たぶんおれがいくら言ったって半田さん聞いてくれないし……葛西さんの言うことなら、ちゃんと聞くかもって思って……』
 そうかそれで、お前は俺に――
 責任重大だな。半田はああ見えて自分の意志が強い男だから、どんなに仲がよくても、良い結果は保証できない。それに一つ疑問がある。
「三笠はそれ、知ってんの」
『……え?』
「半田が工場島ツアーに行くかもしれないってこと」
『……さぁ…』
 まぁ知るわけないか。半田の性格からすると、三笠にはわざと言っていないかもしれない。それを鬼頭が勝手にバラすのもまずいだろう。
「わかった、俺から説得してみる」
 俺は努めて明るく言った。
 おねがいします、おれ、何もできないから…小声に近い音量で鬼頭はつぶやいた。その時初めて、鬼頭に親しみが湧いた。
「何もできないってこたぁないよ。現に俺に教えてくれたでしょ。多分お前が言ってくれなかったらずっと知らなかったと思うし。大事なこと教えてくれてありがとう。あとは俺がなんとかする」


 もう一度、時間を見つけては例の団体について調べた。
 数年前に西州大に突如出現した歴史研究サークル。そこから派生する形でまもなく、廃駅を巡る会が生まれた。人数は所属登録している者で20人ほど。ただし実働は10人にも満たない。
 廃駅巡りのツアーが組まれ、最後に行くのは工場島とされるのが常だった。しかし必ず日付や集合場所が大学や自治体にバレ、厳重注意を受ける。
 大学のサークルだけあって、学生や社会人が入り交ざった構成である。誰が毎度情報を漏らしているのかは不明だが、とにかくスパイが最低一人は混じっている。
 そのせいなのか近年はこのツアー、あまり聞くことがなくなっていた。大学の命令でサークルも解散しているし、団結するにはメンバー同士の信頼が足りない。
 今年になって復活するとは意外だった。もう、フェードアウトしたものだと思っていた。
(それともスパイ探しの罠)
 その可能性もある。メンバーは10人にも満たないわけだから、洗い出すのは意外に簡単だ。あたかも全員を誘っているかのように1人に招待状を出しておき、ツアーの情報が漏れたら、そいつがスパイということになる。
 いずれにせよ半田には話をしなければならない。
 おせっかいに思われようが嫌われようが、知ってしまった以上俺も放置するわけにはいかない。半田が工場島に行ってしまったら、それは半田だけの問題ではなくなる。死にに行くようなものだ。
(死にたいわけじゃないよな?)
 半田からの返信を眺めつつ思った。例の痴漢事件での「軽傷」は、もうカサブタになったとのことである。池町さんも同様。
 ――正義感か。
 そんな陳腐なものじゃない。

  Date 6/28 22:02
  From 半田幸浩
  Sub Re:Re:
  いいですよ〜行きましょー!!
  今度はどの店にしますか?あっ
  翌日休みなら家飲みで泊まって
  くれてもいーですよ☆ミ

 飲みに行こうと差し当たりはそんな文句で誘った。しかし、家飲みか。その方が都合はいい。どうせ二人きりにならないとこの話題は振れない。
 じゃあ泊めて(^3^)-☆今度は俺がそっちに行くから。
 それだけ送信して、ベッドに寝転がった。静かだ。半田が――いなくなったら、どうすればいいのだろう。
 危険なところになど到底縁のなさそうな顔をして、お前はどこに行こうとしているんだ?


 工場島よりも実質ずっと遠いところへ、半田が引っ越していく夢を見た。俺は荷造りを手伝いながら、うちに来ればいいのに、と口説いていた。
 その世界では俺は夏子と暮らしていて、夏子は昔のように正気で、俺は瞬間子どもになっては、大人に戻ったりする。
 週に一度、千彬が帰ってくる。俺は千彬の顔が思い出せない。
 家政婦の竜田が縁側を箒ではいている。いい天気だった。しかし半田は、引っ越すと言う。そして二度と戻らないとまで口ずさむ。
 突如俺は号泣して、半田にすがりつくのに、それは昔よく遊んだ神社の大木で、その裏側にはかくれんぼの鬼になった池町さんがいて数を数えている。
 顔を出すと幼い池町さんと目が合って、笑い合った。池町さんは俺を、キミ、と呼んだ。俺も彼をキミと呼んでいた。そう、名前を知らないのだ。
 キミ、かわいいね。
 池町さんにそう言われる。全身が熱くなる。すると場面が変わって俺は、暗く狭い部屋のベッドで野村を抱いている。野村の中は温かくて柔らかくて気持ちよかった。脈絡もなく絶頂して、気がつくと荷造りのシーンに戻っていた。
 半田、うちに来ればいいのに。
 その撫で肩に呼びかけると、どうして、と言われた。
 どうしても、と言うと俺は子どもになっていて、半田に抱き上げられて、その優しい顔を見るとやはり泣きたくなってきて、半田がキスしてきたので凝視するとそれは半田でなく野村で、彼女は、空気のように優しく俺を抱きしめた。すると俺は泣き始めて赤ん坊になり、胎児になり、細胞になり、やがて消えた。
 ね、うちにおいでよ。
 大木の後ろから池町さんが俺を誘う。
 うちで色んなことして遊ぼう。
 色んなことって、なに。
 キミが望むこと。なんでも。ね、うちにおいでよ。
 まだ生まれていない俺に誰かの優しさが降ってくる。うちにおいでと微笑する。かわいいねと抱きしめる。戻っておいでとキスをする。
 戻っておいで。いい天気だよ。
 そして夜は、幾万の ☆ミ が降った。



 下着と歯ブラシだけ持ち込んで、後は全て半田のものを借りる。
 肴は俺が差し入れるヤキトリ各種と、冷凍食品のタコヤキ、スーパーで半額になったカキフライ、半田のちょっとした創作料理。
 とろけるチーズをフライパンで焼いたものと、もう一品は揚げ出し豆腐だった。実際この毎回の料理が嬉しくて、半田も楽しいのか携帯で毎度写真を撮っていたりする。
 テーブルにいくつも皿が並んだ。エプロンを外した半田も腰を下ろし、では、おつかれさまです、と乾杯をする。
 充実している。とても。
 あっという間に時間は過ぎ、皿も空になり、ビールも合計五缶を超えると頭が軸を失い始めた。半田はふらついてはいないが、耳まで赤くなっている。お互いあまり強くないのだ。
 網戸から柔らかい風が吹き込んでくる。半田は膝で窓際に向かい、ちょっと空を見やってからなんだか嬉しそうな顔をして振り返った。
「網戸開けていい?」
 あ、タメ語だ。最近増えたな。いい傾向だ。
「虫入るよ」
「電気消して。月が明るい」
 俺は言われるがままに明かりを消した。思ったほどの暗闇にはならなかった。なるほど空がぼんやり明るく、慣れれば困りはしない程度。
 半田がカラリと網戸を開け、ベランダに出た。
 俺も膝で窓際に向かうが、頭が揺れて立てない。半田に向かって手を伸ばす。
「はんちゃーん」
「キモイから」
 そう言いながらケラケラ笑う半田の支えのもと立ち上がり、手すりにぐったりと寄りかかった。
 涼しい。
「……星、降ってる?」
「え、なに?」
「星」
「ほし?」
 あ…それは夢の話だったな。だめだ、酔ってるんだな。
「なんでもない」
「なにそれ」
 幾万の星が尾を引いて降っていた。目を凝らすと無数の銀河まで見えて、あまりの美しさに呆然とした。そんな夢を、見た。
 他にはなんだったっけ。半田も出てきたような気がするけど。あ、池町さんも出てきたな。俺はそういうようなことをぶつぶつと半田に報告した。
「僕はなんか言ってた?」
「……二度と戻らないって」
「…え、僕がそう、言ったの」
「言った。で、俺は泣いた…」
 うう、と手すりに顔を伏せると、半田はなんだか愉快そうに笑った。笑ってる場合かよ。ちくしょう。
「じゃあ池町さんは?」
「……きみ、かわいいね…」
「ええーっ」
 弾かれたように半田がのけぞって、引き続き笑う。酔っているだけあって陽気な反応だ。俺は半田が明るい顔をしているのが、なんだか無性に嬉しかった。
「しかも、うちに来いって言われたんだよ、俺」
「うっわー」
「行っちゃえばよかったなあ」
「あれ、行かなかったわけ」
「なんか、場面ころころ変わって…それどころじゃなかった」
「……あ」
 なに?
 今、星が……気のせいかなあ。
 気のせいかもしれなかった。月が異様に明るい今、星の輝きすら危うい。しかし美しい夜だった。風は潮の香りがする。今年はまだ蚊も出ていない。平和だった。こういうのを平和というのだ。
「……半田」
「ん」
「危ないところへは行くなよ」
「……」
 ふいに沈黙が降りかかった。見やると、半田はまっすぐに月を見ていた。赤い目元が眠そうである。
「…なんですか?急に」
 あ、敬語か。仕方ないな。
「鬼頭に泣きつかれたよ。半田さんを止めてくださいって」
「…オーバーだなあ、あいつ」
「でもいいヤツだと思ったよ、今更だけど」
 すると半田の横顔が少し緩んだ。でもまだ視線が遠くを見ている。お前はどこを見ているんだ?とりあえず俺を見ろよ、俺を。
「半田、答えは?」
「答え?」
「危ないトコ、行かない?」
「……行きませんよ」
「ウソだな」
 へらへらと笑ってやると、半田はようやくこちらを見た。驚いているわけではないし、嫌悪しているわけでもない。能面だが、その表情の下にはきっと何らかの感情が渦巻いている。
 お前は何と戦っているんだ?半田。
「…工場島行きたいんだって?」
「……行かないって」
「正直に言え」
「……行きたいわけじゃないですって」
 半田は拗ねたように口をとがらせ、肘をついた。それは本音のように聞こえた。行きたくはないが行こうとしているのか。よくわからない。
「……行ったら死ぬかも」
「ただちには死にませんよ」
「寿命は縮まるかも」
「そうですね」
「それ、すげえヤダ」
「…大丈夫ですよ」
 なにが?なにが大丈夫だというのだろう。
 鬼頭が切羽詰った理由が分かる気がした。砂が指の間をすり抜けて落ちていく感じがする。半田を掌にとどめられない。半田は遠くを見ている。
 平和はやがて崩れ落ちるのか。お前は俺から離れてゆくのか。掌からこぼれ落ちる半田。優しい後輩。会ったときから遠くにいる男。正義感の遺伝子。
「……おまえ、行くときは、俺を連れてけ」
「……え」
「一人で行ったら、殺す」
「……え?」
 へくしゅ。
 唐突にくしゃみが出たので、びくっと半田の肩が揺れた。そして促されて俺は部屋に引っ込み、ふらふらとベッドに倒れ込んだ。
 ねむい。
 寝ていいよ。
 いやだ、まだ飲める。
 どうせ頭痛くなるんでしょうが。
 ならない。飲める。
 寝ろ。めんどくさい。
 へくしゅ。


 半田、うちに来ればいいのに。
 その撫で肩に呼びかけると、どうして、と言われた。
 どうしても、と言うと俺は子どもになっていて、半田に抱き上げられて、その優しい顔を見るとやはり泣きたくなってきて、半田がキスしてきたので凝視するとそれは半田でなく夏子で、彼女は、空気のように優しく俺を抱きしめた。すると俺は泣き始めて赤ん坊になり、胎児になり、細胞になり、夏子に取り込まれてやがて消えた。
 まだ生まれていない俺に誰かの優しさが降ってくる。うちにおいでと微笑する。かわいいねと抱きしめる。戻っておいでとキスをする。死んだら殺すと、涙する。
 戻っておいで。いい月夜だよ。
 そして、幾万の ☆ミ が降った。
 半田がメールで多用するあの、無機質な流星――





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